新A写_K_

MOROHAアフロ ⇔ ツチヤタカユキ

ツチヤタカユキさんが小説を書くために、ノートの最初のページに、書いた言葉は、『VS MOROHA』という言葉でした。
仮想敵にしてきたという異才のヒップホップユニットMOROHA。そのラッパーであるアフロさんに『笑いのカイブツ』の感想をいただきました。アフロさんへのツチヤさんのお手紙を併せて掲載します。


MOROHAアフロ → ツチヤタカユキ

「お前の言ってる事はわかるよ。けどさ・・・」

そう口から漏れたのだけど
「けどさ・・・」
に続いて浮かんだ言葉の不潔さに、下らなさに、気持ち悪さに、鳥肌が立ちました。

ツチヤ、てめぇ、一発入れてくれたな。

こういう奴がいるせいで俺もまだまだ、ぶった斬り続けなきゃいけない。
修羅は望んでる奴にだけ続く。


MOROHA アフロ

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ツチヤタカユキ → MOROHA

拝啓 MOROHA様へ

はじめてMOROHAさんを見たのは、
死んでるように生きていた頃でした。

つけっぱなしにしていたテレビでやっていたのは、千原ジュニアさんの音楽番組。
曽我部恵一さんのオススメのアーティストとして、現われた、お二人。

『三文銭』の演奏がはじまった瞬間。
テレビの中から、デカイ腕が伸びてきて、
襟首を掴まれ、顔面を思いっきり、しばかれたような感覚になりました。

己の腹わたをかっさばいて、体内から心臓をえぐり出して、見せられているような音楽。
そして、その心臓は、情熱の炎で、燃えたぎっていました。

10年以上やったお笑いをやめてから、死んでいるように生きていた僕が、
それを見て、思い出したのは、かつての自分でした。

ファミレスのドリンクバーでねばりながら、
16時間、ぶっ続けでボケを出していたら、
ウェイトレスに「帰ってもらわないと警察呼びますよ!」
と言われて、店を追いだされるような人間だった、かつての自分。

机にかじりついた時間と、埋めきったネタ帳の冊数。
その量だけは、誰にも負けないと、燃えたぎって生きていた、あの頃の自分。
「いつからこんな風に、なってしもたんやろう?」
10年を過ぎても、食えるどころか、ほとんど仕事が無く、
どれだけネタ作っても、向も変わらない日々。

いつからか、続ける理由より、やめる理由ばかり探すようになり、
熱量は枯れて、人間は腐った。そして、足を洗った。
かつては、『天才』と、一部ではそう言われたりもしていた。
それが、こんなにも落ちぶれるのかってくらいに堕落して、
途方に暮れていた。はじめてお二人を見た時は、
そこを思いっきり、しばかれたような感覚になりました。
猪木の闘魂注入の何億倍もの威力で、
顔面丸ごとが、ちぎれて、ふっ飛んでいくような衝撃でした。

次にお二人を目撃したのは、ライブハウスでした。
自主企画ライブでは、いつも、ヤバイ人達を相手に、
対バンされていて、ステージ上で繰り広げられるのは、
究極と究極が、殴り合うライブで、
対バン相手が見せる究極に、究極で返す、
究極返しのステージを見て、僕は目から、一粒の涙を落としました。

ある日のライブで、アフロさんは客席に、こう言い放ちました。

「僕らのライブ見て、感動して泣きましたなんて言う人、
いると思うんだけど、それは感動の涙じゃないと思うんだよね。
俺は感動を呼び起こすような音楽やってるつもりないからね、
それはもっとできるのにやりきれてない自分への、
ふがいなさの涙だろ!? 悔しくて泣いてんだろ!」

その通りでした。
究極を見せつけられた時、とてつもないリスペクトと同時に、
わき上がってきたのは、自分のふがいなさ、そして尋常じゃない
悔しさでした。

帰り道、頭の中が迷子になったまま、ライブハウスを後にしました。
何をすればいいんだろう? どこに行けばいいんだろう?
「俺の究極は、一体、どこにある?」
その当時、お二人と同じ27歳でした。まだ可能性は残っているんだろうか?
それを見つけ出す事さえ出来れば、またあの頃のように。また…。

連載が始まったのは、今から一年前の事でした。
小説を書くための、ノートの最初のページに、
書いた言葉は、『VS MOROHA』という言葉でした。

おこがましくも、勝手に設定した対戦相手。
僕が作りたかったのは、僕の究極でした。
あの日見たステージのように、究極と戦って、
究極を生み出したかったのです。

いつも客席から、見上げていた、
対バン相手と戦って、究極のライブを生み出すMOROHAさんのように。
お二人はとんでもなく手強い相手でした。
MOROHAさんと戦う一年間は、ただの修羅でした。

そんな連載中に2回ぶっ倒れて、病院行きになりました。
MOROHAさんを相手にするという事は、命がけで書くという事でした。

そして、一年の連載をやり遂げました。
「ずっと最後まで、だれる事なく熱量が続いて、
奇跡を見るようでした」と言って下さった方も居ました。
そんなものが書けたのは、設定したVSの相手が、
MOROHAさんだったからです。

いつどの瞬間も究極で、
その究極を更新し続けるお二人の存在が、
何度も自分を奮い立たせて下さいました。
そして、あの日、音楽でしばいて下さって、
本当にありがとうございました。

敬具
ツチヤタカユキ

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